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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)213号 判決

原告

濱岡ひろみ

被告

有限会社北摂サービス

主文

一  被告は、原告に対し、金三五九万七七四三円及びこれに対する平成五年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一五六五万円及びこれに対する平成五年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負つた原告が、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成五年一二月二〇日午前九時三五分ころ

(二) 発生場所

神戸市東灘区本山中町二丁目一番一号先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

訴外深田幸男(以下「訴外深田」という。)は、普通貨物自動車(大阪一三く五三九六。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を東から北へ右折しようとしていた。

他方、原告は原動機付自転車(神戸東に三八〇。以下「原告車両」という。)を運転し、本件交差点を西から東へ直進しようとしていた。

そして、本件交差点内で、被告車両の左側面後部と原告車両の前面とが衝突した。

2  責任原因

被告は、被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度

2  原告に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  被告

訴外深田は、本件交差点において、時速約一〇キロメートルで右折を開始した。そして、ほとんど右折を完了して、被告車両がほぼ北向きになつた時に、その左側面後部に原告車両が衝突したものである。

他方、原告は、被告車両との衝突の寸前までこれを認識しておらず、減速や衝突回避のための措置を何ら講じることなく、漫然と本件交差点に進入してきた。

したがつて、本件事故に対する原告の過失の割合は、少なくとも四割を下回ることはない。

2  原告

訴外深田は、対向直進してくる乗用車が通過した後、原告車両の存在には何ら注意を払うことなく、漫然と右折を開始した。また、被告車両の速度は、少なくとも時速約二〇キロメートルであつた。

他方、原告車両の速度は、時速約三〇キロメートルを下回つており、原告は、衝突前には自車に制動措置を講じている。

したがつて、本件事故に対する原告の過失の割合は、多くとも二割を上回ることはない。

五  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

六  口頭弁論の終結の日は平成八年一二月二〇日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  乙第一四号証の二、三、五ないし八、原告本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実の他に次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点に至る東西道路は、片側各二車線、この他に東西のそれぞれに右折専用の一車線がある合計五車線の道路であり、中央分離帯も含め、幅員は合計約一九・五メートルである。また、南北道路は片側各二車線、合計四車線、幅員合計約一四・一メートルの道路である。

また、本件事故当時の天候は小雨であつた。

(二) 訴外深田は、被告車両を運転し、本件交差点を東から北へ右折するために、本件交差点中央で自車を停止させた。

そして、対向直進してくる自動車の通過を待ち、その流れが途切れた時、進行方向である本件交差点の北側にもつぱら注意を向けながら、自車を発進させ、右折を開始した。

(三) 他方、原告は、原告車両を運転し、路端側の車線を通つて本件交差点にさしかかつた。

なお、原告には本件事故の直前からの記憶がまつたくない。

(四) 訴外深田は、自車が右折を終えようとした時に、自車の左側面後部に衝突しようとする原告車両を初めて認めた。なお、被告車両の車長は六・〇八メートルであり、訴外深田が原告車両を認めた時の訴外深田と原告車両との距離は約五・一メートルである。

そして、訴外深田は直ちに自車に制動措置を講じ、被告車両は、原告車両との衝突後、約二・七メートル前進して停止した。

なお、原告車両と被告車両との衝突地点は、東西道路の北端を結ぶ延長線から約二・二メートル南側である。

また、原告と原告車両は、右衝突地点の約三・六メートル東側に転倒した。

(五) 本件事故の直後、警察官により本件交差点の実況見分が行われたが、路面にはスリツプ痕、擦過痕は認められなかつた。

2  右認定事実によると、訴外深田は、対向直進してくる車両に注意を払う際、普通乗用自動車及びこれよりも大きい車両した念頭になく、その流れが途切れるや、原動機付自転車等が走行してくることをまつたく確認しないまま、漫然と右折を開始しているのであるから、その過失はまことに重大であるといわざるをえない。

他方、被告車両との衝突位置、路面にスリツプ痕、擦過痕が認められなかつたこと等から考えると、原告も本件事故の発生直前まで被告車両を認識していなかつたと推認することができるから、原告の過失も軽視することはできない。

そして、右認定事実をもとに検討すると、本件事故に対する過失の割合を、原告が二五パーセント、訴外深田が七五パーセントとするのが相当である。

二  争点2(原告に生じた損害額)

争点2に対し、原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、原告の損害として認める。

1  原告の傷害、入通院期間、後遺障害等

まず、原告の損害を算定する基礎となるべき原告の傷害、入通院期間、後遺障害等について検討する(特に証拠の記載のないものは当事者間に争いがない。)。

(一) 原告は、本件事故により、顔面裂傷、上下顎骨骨折、歯牙喪失、左頬骨骨折、鼻骨骨折等の傷害を負つた。

(二) 原告は、本件事故直後、救急車で医療法人明倫会宮地病院に搬送された。そして、その後、兵庫医科大学病院に転送され、同病院に入院した。

(三) 原告の兵庫医科大学病院への入院期間は、平成五年一二月二〇日から平成六年二月一四日まで、同年八月四日から同月一七日まで、同年一二月二四日から平成七年一月一二日までの合計九一日間である(最終の入院につき、甲第二号証、第三号証の三六ないし三八、第四号証の七ないし九、乙第六号証、原告本人尋問の結果)。

(四) 原告の兵庫医科大学病院への通院期間は、次のとおりである(乙第五ないし第九号証)。

(1) 整形外科 平成五年一二月二一日から平成六年一二月九日まで(実通院日数一〇日)

(2) 耳鼻咽喉科 平成六年一月一九日から平成七年九月二六日まで(実通院日数六三日)

(3) 歯科口腔外科 平成五年一二月二〇日から(平成七年九月一三日現在も治療継続中。右同日までの実通院日数四〇日。)

(五) 原告の傷害は、整形外科関係では平成六年一二月九日に、耳鼻咽喉科関係では平成七年九月二六日に、歯科口腔外科関係では平成六年一二月ころ、いずれも症状が固定した旨の診断がされた。

そして、原告の後遺障害は、自動車損害賠償責任保険手続において、自動車損害賠償保障法施行令別表の一二級三号(七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの)、一二級一四号(女子の外貌に醜状を残すもの)に該当するものとして、いわゆる併合一一級の認定がされた。

2  損害

(一) 治療費・文書料

金三一五万五七七七円(被告支払分)の限りでは、当事者間に争いがない。

そして、甲第三号証の一ないし四六、第四号証の一ないし二七、第五号証の一、二によると、これを超えて金四六万六〇七〇円の治療費・文書料が発生し、原告が支払つたことが認められる。

したがつて、治療費・文書料は、合計金三六二万一八四七円である。

(二) 入院雑費

入院雑費金九万二三〇〇円の発生については当事者間に争いがない。

ところで、右入院雑費は、当初原告が主張していた七一日間に相当する分であるが、原告は、後に、入院期間は九一日である旨主張を変更し、前記のとおり右入院期間は認められる。

そして、入院雑費は一日金一三〇〇円の割合で認めるのが相当であるから、次の計算式により、金一一万八三〇〇円となる。

計算式 1,300×91=118,300

なお、原告が入院期間の主張を変更していること、同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害賠償請求権の個数は全体として一個と解されることに照らすと、原告の主張する入院雑費の金額を上回る金額を認定しても、総額としての認定金額が原告の主張の範囲内である限り、弁論主義違反の問題は生じない。

(三) 交通費

原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、通院交通費金六四万〇八一〇円を認めることができる。

(四) 休業損害

原告が、本件事故当時、第一生命保険相互会社の生命保険募集人であつたこと、本件事故の直前である平成五年九月から一一月まで(九一日間)に、同社から原告に支給された金額が合計金一〇六万九二〇五円であることは当事者間に争いがない。そして、これを単純に年収に換算すると、次の計算式により、金四二八万八五六九円となる(円未満切捨て。以下同様。)。

計算式 1,069,205÷91×365=4,288,569

ところで、甲第七ないし第九号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、生命保険募集人は税法上事業所得者とされていること、原告は、右収入の中から顧客への粗品等を自己の負担で購入していること、税金申告の際には、収入のうち少なくとも四割近い金額が経費として控除されていること、ただし、原告は、本件事故当時、第一生命保険相互会社神戸支社の育成所長の職にあり、新人の育成指導等も職務として行つていたため、実際の経費はそれほどは必要としないこと、本件事故がなければ、原告は、平成六年四月一日付で第一生命保険相互会社の指導主管という上位資格に登用されることがほぼ確実であつたこと、指導主管は税法上給与所得者とされていること、指導主管に登用されれば、年間金三九万二七六二円(第一生命保険相互会社の全国平均)程度の増収が見込まれること、原告は、二人の子(昭和五〇年生と昭和五五年生)と居住していること、原告は本件事故による傷害の治療のため、平成五年一二月二〇日から平成七年二月二八日まで休業のやむなきに至つたことが認められる。

そして、これらの事実によると、休業損害を算定する基礎となるべき原告の年収を、平成五年一二月二〇日から平成六年三月三一日まで(一〇二日間)は、前記金四二八万八五六九円から経費率を二割としてこれを控除した金三四三万〇八五五円(後記計算式)と、同年四月一日から平成七年二月二八日まで(三三四日間)は、これに増収見込み分金三九万二七六二円を加えた金三八二万三六一七円とするのが相当である。

計算式 4,288,569×(1-0.2)=3,430,855

したがつて、休業損害は、次の計算式により、金四四五万七六三〇円となる。

計算式 3,430,855÷365×102+3,823,617÷365×334=4,457,630

(五) 後遺障害による逸失利益

原告の後遺障害の内容については前記のとおりであるところ、原告本人尋問の結果によると、原告は、現在でも左側頭部に痛みがずつと続いていること、右痛み並びに顔面に残る瘢痕及び新たに装着することとなつた義歯等が原因で、原告は、生命保険の募集等で顧客と接する際に劣等感を抱いていること、原告の収入は出来高による歩合制であるところ、現在では、本件事故前ほどの収入は得られていないことが認められる。

しかし、他方、弁論の全趣旨(具体的には原告本人尋問の際の所作挙動等)によると、原告の顔面に残る瘢痕はごく軽度のもので、もとより他人に不快感を与えるという性質のものではないことも認められる。

そして、これらの事実、特に、原告の職業、現実の収入減等に照らすと、原告は、症状固定時(原告は満四七歳)から二〇年間にわたつて、労働能力の一〇パーセントを喪失したとするのが相当である。

また、後遺障害による逸失利益を算定するにあたつては、前記年収金三八二万三六一七円を基準として、本件事故時の原価を求めるため、中間利息の控除については新ホフマン係数によるのが相当であるから(本件事故時には原告は満四五歳。二二年間の新ホフマン係数は一四・五八〇〇、二年間の新ホフマン係数は一・八六一四。)、右逸失利益は、次の計算式により、金四八六万三一〇五円となる。

計算式 3,823,617×0.1×(14.5800-1.8614)=4,863,105

(六) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺障害の内容、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告に生じた精神的苦痛を慰謝するには、金四八〇万円をもつてするのが相当である(うち後遺障害に対応する金額は金三三〇万円。)。

(七) 小計

(一)ないし(六)の合計は金一八五〇万一六九二円である。

3  過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する原告の過失の割合を二五パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、原告の損害から右割合を控除する。

したがつて、右控除後の金額は、次の計算式により、金一三八七万六二六九円となる。

計算式 18,501,692×(1-0.25)=13,876,269

4  損害の填補

原告の損害のうち、金一〇五七万八五二六円がすでに填補されていることは当事者間に争いがない。

したがつて、右過失相殺後の金額からこれを控除すると、金三二九万七七四三円となる。

5  弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金三〇万円とするのが相当である。

第四結論

よつて、原告の請求は、主文第一甲記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

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